

Aerial view of Marcus Island and the runway which supports the US Coast Guard station located there. Marcus Island is the southernmost island in the Japanese chain.
※本基金は2024年6月に「南鳥島レアアース泥を開発して日本の未来を拓く」から「南鳥島レアアース泥・マンガンノジュールを開発して日本の未来を拓く」に名称を変更しました。
ご支援のお願い
レアアースは我が国の基幹産業であるハイテク産業やグリーンテクノロジー産業に必須の金属であり、電気自動車やスマートフォン、LEDなど私たちの日常生活の様々な場面で活用されています。しかし、現在世界のレアアース生産はその大部分を中国に依存しています。さらに、2019年以降激化している米中貿易戦争に伴い、中国はレアアースを「重要な戦略資源」と宣言し、2010年の「レアアース・ショック」に引き続きレアアース禁輸を示唆しました。このような状況を打破するため、アメリカをはじめとした先進諸国は、レアアースを筆頭とする重要資源のサプライチェーンの強靱化に取り組んでいますが、未だ問題の解決には至っていません。国の基幹産業の命運を他国に握られることのない資源安全保障を確立することは、日本にとっても喫緊の課題です。
工学系研究科の加藤・中村・安川研究室では、2013年に日本の排他的経済水域(EEZ)である南鳥島周辺に次世代型のクリーンな資源である「レアアース泥」が膨大な量存在していることを発見しました。私たちはこの国産レアアース資源を商業ベースで活用することこそが、日本の資源安全保障の確立につながると考え、その探査、環境影響調査、採泥・揚泥、選鉱・製錬、残泥処理、およびレアアースを用いた新素材に関する研究開発を進めています。私たちの研究の結果、南鳥島EEZ内およびその周辺の海域(公海)には、世界最高品位のレアアース泥が豊富に分布していることがわかってきました。
さらに私たちは2016年、電気自動車やモバイル電子機器などに使われるリチウムイオン電池に必須のバッテリーメタルである、コバルトやニッケルを豊富に含んだ海底鉱物資源「マンガンノジュール」も、南鳥島EEZ内に広く分布していることを発見しました。そして2024年6月には、日本財団の委託を受けてより詳細な調査を行い、南鳥島EEZのごく一部である10,000 km2 の海域に、約2.3億トンものマンガンノジュールが密集して分布していることを明らかにしました。そのコバルト資源量は約61万トン、 ニッケル資源量は約74万トンに達し、日本の年間消費量の75年分に相当するコバルト資源が存在することも判明しました。
その一方で近年、中国が、南鳥島EEZに隣接した海域でマンガンノジュールとコバルトリッチクラストの鉱区を相次いで取得しました。さらに中国は日本のEEZ近傍でレアアース泥についてもその調査を精力的に実施しており、レアアースやバッテリーメタルの市場における自国の優位性のさらなる強化を狙っています。今、我が国が中国に先んじて国産レアアース・バッテリーメタル資源を開発し、これら重要鉱物の経済安全保障を確立できなければ、日本の目と鼻の先で生産されたレアアースやバッテリーメタルを中国から買うという悪夢のような未来が訪れるかも知れません。
そこで私たちは、日本のEEZ外を含む南鳥島周辺の北西太平洋広域におけるレアアース泥・マンガンノジュールの精緻な分布および品位情報を把握するために調査航海を計画しています。これにより、公海におけるこれらの海底鉱物資源の開発が許可された際に、いち早く最良な鉱区を獲得し、開発に向けて動き出すことができます。さらに、この航海で採取したレアアース泥・マンガンノジュールを用いて選鉱・製錬、分離・精製、残泥・残渣処理、製品作成についての実証実験を行い、海洋立国・日本が主体となる、海を起点とした新しいレアアースおよびバッテリーメタルのサプライチェーンの基礎を構築します。計画実施のためには、公的資金も活用する予定ですが、それだけでは充分ではありません。日本のものづくり産業の未来を拓く国産レアアース・バッテリーメタル資源の確保と、国の安全保障につながる新たな資源の開発に1社でも多く、1人でも多くの皆様の力強いご支援を賜りたくお願い申し上げます。
なぜレアアースは重要か?
レアアースはテレビやデジカメ、携帯電話、パソコン、ハイブリッド/電気自動車など、私たちの日常生活に欠かせない様々なハイテク製品に使われています。たとえば、ネオジムやジスプロシウムを使った小型かつ強力なレアアース磁石によって、電気自動車のモーターや携帯電話のマナーモードの振動が実現されました。
そのほか、地球に優しいLEDや燃料電池のほか、インフルエンザ治療薬やMRI造影剤などの医療分野、さらには航空宇宙産業や安全保障分野にもレアアースは重要な役割を果たしています。これからの次世代産業や先端技術開発に必要不可欠な材料であり、レアアース産業の経済規模は年間5兆円に上ります。
レアアースとは?
レアアース(希土類)とはレアメタルの仲間で、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の17元素の総称です。
また,ランタンからサマリウムまでの6元素を軽レアアース、ユウロピウムからルテチウムまでの9元素にイットリウムを加えた10元素を重レアアースと呼びます。特に、重レアアースは産業上の重要性が高い元素群です。また、最近はスカンジウムの重要性も広く認知されつつあります。
レアアース泥の発見
現在、レアアースの生産は中国が世界の大半を占めています。2010年に起こった中国のレアアース禁輸による「レアアース・ショック」が世界的な問題となったほか、2019年にもアメリカと中国の間でレアアースをめぐり緊張が高まったように、その安定供給には大きな課題を抱えています。
このような状況の中、私たちは、これまで誰も注目していなかった深海の「泥」が、 新たなレアアース資源となりうることを、2011年に発表しました。 我々が発見した「レアアース泥」は、 (1) 高いレアアース含有量を持つ (特に重レアアースやスカンジウムに富む)、(2) 深海底に広く分布しており、資源量が膨大、(3) 層状に分布するため探査が容易、(4) 開発の障害となるトリウムやウランなどの放射性元素をほとんど含まないクリーンな資源、(5) 希塩酸などで容易にレアアースが抽出可能であるなど、資源開発に有利な特長をいくつも兼ね備えた、まさに「夢の泥」といえるものです。
さらに私たちは、レアアース泥が我が国の排他的経済水域である南鳥島周辺の海底に分布していることも突き止めました。これにより、日本がレアアース資源を独自に開発できる可能性が出てきました。この南鳥島で見つかったレアアース泥は、中国の陸上鉱山の20倍の品位を持つ、世界最高品位の「超高濃度レアアース泥」です。私たちの研究成果によると、およそ100 平方キロメートルの有望エリアだけでも、日本の年間需要の数十年から数百年分に達する莫大な資源ポテンシャルをもつことがわかっています。
国産レアアース資源の開発に向けて
南鳥島レアアース泥開発の実現を目的として、私たちは2014年に「レアアース泥開発推進コンソーシアム」を東京大学に設立しました。本コンソーシアムには、日本を代表する30以上の企業・機関が参加しており、5つの部会に分かれて鋭意検討を進めています。
レアアース泥は水深5000mを超える深海底にあります。レアアース泥の開発システムとしては、海洋石油生産で多く用いられている「浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備 (Floating Production, Storage and Offloading system: FPSO)」を応用したシステムを検討しています。海底からレアアース泥を揚げるためには「エアリフト」という技術を用います。これはパイプに圧縮空気を送り込んで泥水に空気を混ぜ、浮力を利用して引き揚げるものです。揚泥されたレアアース泥からは、希塩酸を用いてレアアースをリーチング(浸出) します。このリーチング溶液を陸上工場へ輸送し、レアアースを分離・精製します。また、残泥には水酸化ナトリウムを添加することで中和・無害化し、埋立資材やセメント資材、環境資材として使用することを考えています。
これまで私たちが挙げてきた成果は国からも高く評価されており、「海洋基本計画」や「日本再興戦略」など国の主要政策にはレアアース泥の調査・開発技術の推進が明記されています。また、2018年からは内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム第2期 革新的深海資源調査技術」で、レアアース泥の採泥・揚泥技術の開発が開始されるなど、我が国の資源政策に多大な影響を与えています。
さらに詳しくは加藤教授が説明する動画をご覧ください
南鳥島マンガンノジュールについて
日本の排他的経済水域である南鳥島EEZ内の深海底には、レアアース泥のほかにマンガンノジュールという海底鉱物資源も一緒に分布しています。マンガンノジュールは、電気自動車やモバイル電子機器などに使われるリチウムイオン電池に必須のバッテリーメタルであるコバルトやニッケルの資源として世界的に注目されており、ハワイ沖の国際鉱区では商業開発を見据えた海外企業の取り組みが進展しつつあります。2022年には、ハワイ沖の水深4300mの海域で、エアリフトを用いた揚鉱パイロット実験が実施され、実際に約3000トンのマンガンノジュールが揚鉱されています。
2016年、私たちは南鳥島EEZ全域で有人潜水調査船「しんかい6500」を用いたマンガンノジュール調査を行い、EEZの広い範囲にマンガンノジュールの密集域が存在することを発見しました。さらに2024年6月には、日本財団の委託を受けてより詳細な調査を行い、10,000 km2以上という広大なエリアにマンガンノジュールが連続的に分布していることを確認することができました。このエリア全体には2.3億トンものマンガンノジュールが存在しており、この有望海域だけでも日本の年間消費量の75年分以上のコバルト資源を見込めることが判明しています。私たちは日本財団とともに、商用化を見越して1日に数千トン規模でマンガンノジュールを揚鉱する実証試験を計画しています。
提供:日本財団
ご寄付の活用
私たちは、南鳥島海域で約1ヶ月の調査航海を行い、EEZ内外の資源分布の詳細を把握するとともに、実際に採取したレアアース泥・マンガンノジュールを用いて「選鉱・製錬→分離・精製→残泥・残渣処理→製品作成」という一連のフローの実証試験を行う計画です。南鳥島における調査航海には、船舶費、人件費、機材・艤装費等1回につき約1億5000万円以上の金額が必要になるほか、実証試験に関する機材の調達にも多額の経費がかかります。さらに、将来の国産海底鉱物資源の開発を担う、若手人材の育成も行っていきたいと考えています。こうした研究の性格上、ぜひとも長期的かつ継続的なご支援をいただきたく存じます。
公的資金を活用しつつ、不足する部分を広く国民の皆様とレアアース・バッテリーメタルを活用する様々な産業界からのご寄付によって支えていただきたくお願い申し上げます。
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